- 中国関連セミナー
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◆◆佐藤中国経営研究所(1/2)
代表 佐藤忠幸氏
『佐藤氏に聞く!~中国の製造業~』
【今回の人物】
佐藤中国経営研究所 代表 佐藤忠幸氏
アルプス電気株式会社での勤務経験を経て、フュ-テック株式会社に転職後、同社のマレーシア現地法人(Futek Malaysia Sdn Bh)へ社長として赴任。その後、38年間身を置いた電子業界を離れ、中国において異業種製造業数社の総経理・副総経理を歴任し、品質向上・工場再建・会社設立などに携わる。マレーシアで9年、中国で9年と、豊富な現地法人経営経験を持つ。2005年、経営コンサルタント会社「佐藤中国経営研究所」を開設し、代表を務めている。現在は、上海を基盤として、中国法人の品質管
理から労務管理および経営管理まで幅広い分野の相談並びに指導を行っている。2007年より財団法人日本海外職業訓練協会(OVTA)(注1)国際アドバイザーに就任、日中双方での講演活動ならびに雑誌や新聞への執筆を多数手がけている。
注1:財団法人日本海外職業訓練協会
(Overseas Vocational Training Association 略称OVTA)
企業への支援活動を行うことを目的として、官民一体の協力のもとに昭和57年11月に発足した団体。国際化人材の育成、外国人への日本語研修、教材の開発・提供などのほか、相談と問題解決への支援として、海外経験豊かな国際アドバイザーが誠実なアドバイスを行っている。(財団法人日本海外職業訓練協会HPより抜粋)
【今回のテーマ】
「100年に一度」とも言われる米国発の金融危機の影響で、米国の過剰消費構造は崩壊し、世界的な景気減速により外需は低迷を続けている。世界規模の経済悪化はGDPの約40%を輸出産業に依存している中国経済に、深刻な事態を引き起こし、中国は輸出減少を余儀なくされた。また、賃金の上昇に伴う「世界の工場」としての中国の地位低下により、サービス業への産業構造の転換が求められつつある中、中国における製造業は岐路に立たされている。そこで今回は、製造業のスペシャリストである「佐
藤中国経営研究所」代表 佐藤忠幸氏に、中国における製造業の品質・労務・経営管理、そして中国における製造業の今後の行方について、お話を伺った。
- -佐藤さんは、品質管理のコンサルティングに関しては品質向上運動やシステムの構築、5S(注2)運動指導といったお仕事をされていますが、その際、品質管理に対する“こだわり”はございますか?
- 品質管理の“こだわり”は源流に遡って管理する『源流管理』です。不良品の発生を源で抑えてしまうのです。その反対が、できたものを検査することで不良品流出を抑える『検査管理』です。中国の工場では基本的に『検査管理』が採用されていますが、私が源流管理にこだわる理由は、品質が一番安定することに加えて、付加価値を生まない検査工程を省くことができるためコスト削減が可能だからです。そもそも滅多に発生しない不良品流出を防ぐために、多くの検査工程を設ける検査管理は、莫大なコストが掛かってしまいます。源流管理では、万が一不良品が出た場合、「製品の不良がどの工場の、どの工程で発生したのか?あるいは、どの仕様書の、どの部品が原因なのか?」といった具合に徹底的に原因を“源流に遡って”追求します。しかし、中国の多くの企業はこの源流管理を苦手としているため、私は『源流管理』の定着を目指して、品質管理のコンサルティングを中国でしているというわけです。
注2:5S(ゴエス)
製造業やサービス業などの職場環境維持改善・能率向上・在庫削減・品質向上活動で用いられるスローガンである。各職場において徹底されるべき事項で、整理・整頓・清掃・清潔・躾(習慣化の場合もある)の5項目を指す。5Sという名前は、これら5項目が、いずれも日本語での頭文字がSとなっている事に由来する。(wikipediaより抜粋) - -日本人である佐藤さんがコンサルティングを行っているということは、それだけ日本の品質管理に対する意識が高いということなのでしょうか?
- そもそも5S運動や源流管理といった品質管理システムは日本が発祥で、品質管理において日本は世界一なのです。60~70年代の日本の高度経済成長を支えた製造業界では、資源の少ない日本が世界と戦っていくには、「品質で勝つしかない」という考えのもと、アメリカのデミング博士(注3)により伝えられた品質基準を導入しました。その後、徹底して品質管理に取り組んだ結果、今ではアメリカ以上の品質水準に達しています。日本では毎年、品質管理の優れた企業にはデミング賞(注4)という賞が与えられるのですが、アメリカにはデミング賞はおろか、デミング博士の名前すらあまり知られていません。それほど、日本では品質管理意識が高いということです。
注3:ウィリアム・エドワーズ・デミング(英: William Edwards Deming)
アメリカ合衆国の統計学者、大学教授、著述家、講演者、コンサルタントである。1950年から日本の企業経営者に、設計/製品品質/製品検査/販売などを強化する方法を伝授し、日本がイノベーティブな高品質製品を製造し経済力を高めるのに多大な貢献をした。(wikipediaより抜粋)
注4:デミング賞(Deming Prize)
TQM(総合品質管理)の進歩に功績のあった民間の団体および個人に授与されている賞。 (wikipediaより抜粋) - -しかし、当然現場の人々はコンサルタントよりも現場に熟知しています。それにも関わらず、佐藤さんのような外部の人間に依頼がくるのは、コンサルタントだからこそできる仕事があるからだと思うのですが?
- “現場の人々ができないこと”をするのが、コンサルタントの仕事です。残念ながら、日系企業の工場では品質管理システムを創り上げてきた団塊世代の人間がすでに引退し、既に構築済みのシステムに“従っていた”世代の人々が今の工場を管理しているのが現状です。我々が品質管理システムの構築に必死に取り組む一方、後輩たちを育てられなかったため、我々の世代が創り上げた品質管理の“文化”は後の世代に受け継がれなかったのです。ですから、徹底して品質管理システム定着化のための教
育を行っている、トヨタやパナソニックのような大企業の工場は別として、仕組が出来上がっていて“空気”のように当たり前になってしまったものを、“従っていた”世代の人々が中国で新たに創り出すことはできないのです。そんな現場の人々の代わりに、品質管理システムの構築や欠陥の発見及び修正を通じて、日本本来の品質管理への高い意識を保つこと、それがコンサルタントである私の仕事です。 - -「Made in Japan」と「Made in China」の品質の差はどこから生まれるのでしょうか?
- 同じ日系企業の工場で、たとえ設備や技術的に差がないとしても、日本の工場で生産したものと中国の工場で生産したものとでは、やはり品質に差があります。その差は、既に品質管理システムが構築されている日本と、まだ構築されていないばかりか、その指導者すら少ない中国の“環境の差”に起因します。指導者には、品質管理システム構築の経験が欠けているため、一から組織や品質管理システムを構築していくことが難しいからです。
次に、日系企業と中国企業の作る製品の品質の差は、日中の間で根本的に異なる双方の“消費者意識”の差に起因します。日本人の消費者は「買ったものは必ず良品である」と考える一方、中国人の消費者は「買ったものの中には必ず不良品がある」と考えます。ですから、中国では電化製品などを購入した際には、きちんと作動するかどうかを“検査”するように、店側から必ず言われます。消費者が自衛しなければならないのです。日本では決して見られない光景ですよね。
このような中国の消費者意識の根底には、「人間は必ず悪いことをする」という『性悪説』的な前提があるのです。ですから、モノを売る側も買う側も“検査”する必要があるということです。つまり、中国製品の品質が未だに低い原因は“検査”に頼って品質を管理する検査依存体質にあります。性悪説に基づいた品質管理システムでは、工場で作業員を監視するための多数の監視カメラ設置等、莫大なコストが必要で
あり、絶対にうまくいきません。『性善説』に基づいた品質管理システムをいかに構築するかということが大切です。そのためには、作業者はもちろん、監督者も考え方を切り替える必要があります。それがまさに、私の指導している「5S運動」です。 - -「5S運動」の指導をする際に、重要な要素は “躾(しつけ)”と言われていますが、佐藤さんが実際に指導を行う際は、どのようなことを意識されるのでしょうか?
- 私も5Sの内の“躾(しつけ)”を一から教育する必要があると考えています。よく例として挙げるのですが、中国の交差点では、警官がいる場合、歩行者は比較的交通ルールを守ります。一方で警官がいない場合、大部分の人は信号無視です。つまり、彼らは信号無視を「やってはいけないこと」だと認識してはいるのです。しかし、「わかっているけれども、罰則がなければ信号無視する」、これが中国の考え方です。この状態を会社や工場に持ち込まれたら、常に監視していないと、作業者は何もかもいいかげんにやってしまいます。これでは、会社や工場の秩序というものが成り立ちません。ただ単に監督者を配置するだけでは、監督者を監督する監督者が必要になるだけです。だからこそ、“躾(しつけ)”を徹底的に指導することによって、根本的な考え方から変えていく必要があるのです。
そこで、私が実践している有効な指導方法は、グループ間での「競争」です。総経理も含めた全社員が小さなグループをつくり、グループ内でお互いに改善内容を話し合い、グループごとに競争させる方法です。実際、これまで私が「5S運動」による指導を行った数社で、改善が見られました。指導を行った工場は3ヵ月で変化し始め、6ヶ月経てば見違える工場になります。 - -佐藤さんは中国の製造業に関わるようになってから9年になりますが、その中で中国の品質にどのような変化を感じましたか?
- 90年代は“安い、悪い”の時代でした。2000年以降は、品質は向上したものの、『検査管理』に頼っているために品質の“ばらつき”が大きいのです。中国では、その“ばらつき”を少なくする努力がまだまだ足りないと感じています。こうした事実の背景にあるのは、中国の『利益第一主義』です。中国では「売価-利益=原価」という考え方が存在します。つまり、まず原価にいくらお金を掛けられるか考える段階で、すでに“利益”を考えてしまっているのです。つまり、中国では「損してまで売るバカはいない」という考え方が基本です。逆に日本では、「売価-原価=利益」という考え方で、あくまで利益は結果です。利益を第一に考える中国では、設定した利益に見合った原材料を使い、利益に見合った工程で製品を製造します。このような考えを改めない限りは、中国の品質の向上はあり得ません。中国は“計算式”を変える必要があるのです。
- -今後の中国製品の品質改善の行方について、佐藤さんの見解をお聞かせください。
- 改善の鍵は品質のばらつきを抑えること、すなわち「均一な品質を保てるかどうか」にかかっています。しかし、品質の改善には数十年かかるでしょう。もちろん、中央政府は「改善しなくてはならない」ということを認識していますが、ここで問題となるのが地方政府です。毎年のGDPの成長率を重視する“GDP第一主義”にとらわれているために、中央政府は地方政府を統制できていません。そのことは、中央政府が10年程前から訴えている環境保護を軽視していることからもわかります。その意味では、
中国製品の品質改善の見通しは暗いというのが私の見解です。一方、日系企業にとっては“日中間の品質の差”を認識し、それを自社の優位性として捉えている限りは安泰でしょう。 - -次に、労務管理についてお聞きします。2008年1月1日より中国で、労働契約法(注5)が施行されましたが、どのような経緯で労働契約法施行に至ったのでしょうか?
- よく労働契約法のことを“新”労働法と呼ぶ人がいますが、労働契約法と労働法(注6)は全くの別物です。正確には、労働契約法は“労働法を守らせるため”の法律なのです。
労働法の内容は労働契約法と90%一致しているものの、以前は、実質“空文化”していました。「労働法を遵守する必要がない」という風潮が強く、ほとんどの中国系企業は労働法を守っていませんでした。例えば、労働法でも最低賃金が定められていたものの、多くの企業は“努力目標”として扱っていました。“下限”であるべきものが“上限”だったのです。そうした企業側の労働者に対する意識を変えるべく、「労
働者を保護する」という観点から今回の労働契約法施行に至ったわけです。本来、「労農国家」であり、資本家という概念もなかった中国では、労働者は資本家に対して弱い立場であるはずはありませんでした。経済の改革開放以来、市場経済という名の資本主義を走って成功した中国としては、これを是認せざるを得なくなりました。中国としては、これらを法律面で追認し、労働者を搾取から保護しなければならないという大転換です。また、初めて「労使」という概念も確立され、中国としては画期的な法律と認識すべきです。
注5:労働契約法
中国において、労働者権益保護に向けて制度面の改善を進めるため、労働者の雇用契約を厳密に規制し監督することを目的に制定された法律。2008年1月1日より施行。
(メルマガ最後に記載の参考HPより抜粋)
注6:労働法
中国において、労働関係を全面的に調整し 労働行為を規範化する最初の基本的法律。1994年7月5日より公布。(メルマガ最後に記載の参考HPより抜粋) - -労働法と労働契約法の最大の違いは何でしょうか?
- 無固定期間労働契約の条件が追加されたことです。つまり、無固定期間労働契約を結ぶ権利が、労働法施行時にも対象とされていた「勤続10年以上の者」だけでなく、「3回目の労働契約を結ぶ者」にも、与えられることとなりました。もう一つは、会社の都合で解雇(契約終了)する場合には経済補償金(退職金)を勤続年数に応じて支払う必要があることとなりました。つまり、長く勤続すればするほど、労働者が優遇されるという環境が整ったわけです。これまで、多くの日系企業の総経理が中国特有の問題として頭を悩ませていたのが「短期退職者が多い」ことでした。ですから、長期に渡る勤続が珍しい中国において、退職者が減るのであれば日系企業にとっては、本来歓迎すべきことなのです。しかし、人事考課をいい加減に行っている企業の場合、「自社に必要でない人材が永年勤続者として残ってしまう」という危険性を忘れてはいけません。
- -では、労働契約法の施行は日系企業にどのような影響を与えたとお考えですか?
- 以前から徹底してコンプライアンス(注7)の姿勢を貫いてきた日系企業にとって、労働契約法の施行は朗報と言えるでしょう。なぜなら、今回の労働契約法には、“コンプライアンス重視”の姿勢が強く表れており、法律違反に対する罰則も明確になったからです。以前は、労働法を守っていた日系企業は、守っていない中国系企業に苦戦を強いられてきました。労務コストの面で常に差が出てしまうため、不利な戦いだったのです。ですから労働契約法施行を機に、日系企業はやっと中国系企業と同じ土俵で、対等に戦える環境が整ったと言えます。
注7:コンプライアンス (Compliance)
コーポレートガバナンスの基本原理の一つで、法律や規則などのごく基本的なルールに従って活動を行うこと。(Wikipediaより抜粋) - 次号につづく ≫
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