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セミナー


◆◆読売新聞東京本社 上海支局(2/2)
   上海支局長 加藤隆則氏
   『真実は人の口からのみ語られる』
   

〈前号のつづき〉

―上海支局での御社の社員構成、業務内容を教えて下さい。
上海支局の社員は現在、私1人のみとなっております。その他に中国人の助手2人と運転手が1人います。中国では、領事館と外国メディアのみ特別な規定があり、自由に中国人を雇うことはできません。「上海市外国機構服務処」(注2)という政府機関を通さなければならないことになっています。また、現段階では、中国大陸で外国メディアが単独で出版物を発行することは認められていませんので、上海での営利事業は一切行っていません。

上海支局の主な業務は、日本で発行される新聞の海外面へ掲載する記事の作成ですが、そのためのには、毎日のニュースをチェックし、それを通して中国全体の動きを見ることが必要です。上海では3人で業務を行っていますが、取材の際には北京の中国総局の社員、スタッフと連携して仕事をすることが多いです。北京で人手が足らない時などに、上海から地方へ取材に行きます。その際には、通訳として中国人の助手に同行してもらうことが多いです。私自身、標準語は問題なく話せますが、中国は広く、方言がきつい場所では標準語が通じない場合もあります。なまりが強すぎて場所によっては中国人同士でも、話が通じにくいこともあるんですよ。

注2:1975年8月に設立された上海市政府に属する外務オフィスであり、領事館や新聞機構等のためにスタッフやその他サービスを提供する総合部門。
―中国でのメディア活動は、ここ何年かでかなり自由化されてきている印象を受けますが。
中国政府は以前に比べて、外国メディアを積極的に受け入れていますが、国内メディアの自由化の後に、外国メディアの進出が可能になるので、この問題はまだまだ時間がかかると思いますね。中国では、中国政府の「中共中央宣伝部」(注3)という部門が、中国国内の新聞、出版物、テレビ、電話、インターネット等の全メディアの統括をしています。

現在の中国メディア業界では、20代や30代の編集長が数多く活躍していて、世界のメディア業界と比べても、比較的若いです。彼らの新しい情報に対する反応の速さはピカイチですが、道徳的な教育をしっかり積んできていない恐れがあるため、その点が少し怖いところです。同じ中国人でも、文化大革命を経てきた年配の記者は、道徳や倫理の厳しい教育を受けてきているので、彼らの書く記事には重みがありますね。実際、国内メディアによる報道でも、行き過ぎた報道は、中央政府によって規制されているようです。政府との距離の取り方も重要ですが、中国メディア業界はこれからどんどん外に向けて開放されていく、また開放していくべき中国の注目業界だと思います。今後の中国国内メディアの発展が、我々外国メディアの進出に大きく影響してくると思います。

注3:中国共産党中央の直属機構。党の思想や路線の宣伝、教育、啓蒙を担当する。(Wikipediaより抜粋)
―日本と中国で消費者のメディアに対する意識の違いなどはあるのでしょうか?
日本ではまだインターネットに比べ、テレビや新聞の方が消費者の信用度が高いように感じます。インターネット上では自由に意見を述べたり、批判をしたりできますが、その場合、発信者が誰か分からない場合も多いので、信用性に欠けると思われています。政府もネット上の声よりも、各新聞の社説を世論として受け止めているようです。

中国では逆に、国内の全メディアが政府の管轄内にあるため、世論はオンライン上に出てくることが多いです。中国ではインターネット上の情報の方が、正確だと思われている傾向が強く、情報流通のスピード、量、質においても目を見張るものがあります。ネット上で流れた情報を、メディアが追いかけるという形も少なくありません。日本で政府が新聞の社説を意識するのと同様に、中国政府はインターネット上の声にもかなり気を配っています。これは日本とは異なる点ですね。一概に良し悪しと言えるものではなく、「国情」の違いだと思います。
―中国で特に印象に残っている取材はありますか?
上海の反日デモについて取材をした時に、中国、特に上海にいる日本人の意識の持ち方に対して、考えさせられることがありました。当時の反日デモの報道について、日本メディア報道は大げさだと言う声が多々ありましたが、私は少しも大げさだとは思いません。まずは、あの事件が事実であると認識する必要性があると思います。
こちらに来て、日本人駐在員の方の話を聞くと、上海の日本人社会は非常に狭く、中国人との交流がほとんど無いように感じました。日本人専用に設備されたマンションに住み、中国人と接する機会といえば職場のみ、またその中には日本語が話せたり、日本通の中国人社員も多くいる。実生活の中での中国人とのふれあいが、極端に少ない印象を受けました。中国で生活している多くの人が、あの報道が大げさだと思うのは、普段接している中での友好的な面と、反日デモでの行動とのギャップが極端であったらかでしょう。我々は、中国人の心の奥深くにはそういう感情がある、ということを知っておくべきです。

日常生活を送る上で全く支障が無くても、日本と中国は何かのはずみ、又はきっかけで表面化する大きな問題を抱えているのです。私は、けっして大げさに伝えて、両国関係を悪くしようとしているわけではなく、お互いにもっと深い理解が必要で、その社会の根本的な問題の解決無しには本当の日中友好はありえないと考えています。情報発信を通しての日中相互理解への貢献は、我々記者の義務でもあるのです。

身近にいる中国人の方が実際どのように我々日本人を見ているのか。個人的な恨みなどではなく、「日本」という看板に対して、彼らがどのように考えているか、考えさせられました。実際、取材時に、日本人だからというだけで、ひどい目にあったこともあります。これはとても深く、難しい問題ですが、時には見たくないものにもしっかりと目を向け、正面から向き合っていく必要があると思います。
―どんな人が記者に向いているのでしょうか?
もちろん知識は必要ですが、ただ勉強ができるというだけでも難しいと思います。ようは、夜中の2時に人の家のチャイムを押せる面の皮の厚さがあるかどうか、ですかね。誰だって嫌ですよ。十中八九怒られますからね。でも、そうまでしてでも聞きたいことがある、また、聞くべきことがあるときに、実際に行動できるかどうかが、記者として必要不可欠な要素なのです。

記者の中では30代なんてまだまだ子ども扱いで、私もようやく大人になれたようなものです。また、我々は常に「批判精神」を持ち続けなくてはなりません。メディアは権力を監視しなければならないのです。権力という強い者に対して、立ち向かう正義感が無ければ記者をやっている意味がないのです。

またそれと同時に、メディアは謙虚でなければなりません。誰からも監視されない立場であるため、自分達が自分達自身で倫理を作っていく必要があります。「お金では買えない信用」を得るために長い年月と多大な労力をかけてきました。些細なことで、信用は失われてしまいます。我々記者ひとりひとりが、それを常に意識することが大事なのです。
―最後に、若者へのメッセージをお願いします。
何事においても、独立した思考を持ち、物事を相対的に考えることが必要だと思います。その点では、ものを知るということはとても大事です。その第一歩として、自分が見ている世界は非常に狭いと認識し、より沢山のものを見るためにはどうすればいいのか、ということを考える必要があります。

多くを経験することは勿論大切ですが、それと同時に努力もするべきであり、いろいろな本を読んで、いろんな人に会うといいですね。これは、どんな職業にも通じることだと思います。自分の世界しか知らない人間は弱いです。歴史においても同様で、日本人として日本の昔を知らない人は、ものの考え方が浅くなります。

歴史を学ぶことによって自分の中での時間と空間の軸が非常に長くなります。一つの国を理解する上で、歴史の勉強は必要不可欠だと思います。幸いにして、皆さんは外国にいるので、そのメリットは十分に生かしていくべきです。日本人の思考も、中国人の思考も理解できる、また理解する努力が必要です。これからの若い人には、広い視点で物事を捉えられるようになってほしいですね。
―ありがとうございました。
読売新聞東京本社 上海支局
上海支局長 加藤隆則氏
http://info.yomiuri.co.jp/

住所:上海市淮海中路93号 大時代上海広場1701室
電話:021-6384-0018
Fax:021-6391-0608

インタビュアー:日高愛理
執筆:日高愛理
同行:稲留慶司、華迪斐、藤原慎
校正担当:藤岡耕三、大江航、山本ゆり

【編集後記】

「正義感」という言葉は加藤様のためにあるのではと感じました。「自分が伝えなけ
れば歴史上に残らない」というお言葉に、ジャーナリストとしての使命感を背負って
おられるお姿を見せて頂きました。また、今回の取材を通して、事実を事実として伝
える事の難しさを感じ、RINKOKUメルマガでもより正確な、より分かりやすい情報の
発信を目指していきたいと思いました。(日高愛理)


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「せっかく中国経済の中心地・上海でいるんだから、生の中国ビジネスに触れたい!」そんな思いを胸に、当時、上海財経大学に留学していた小林直樹が立ち上げたサークルです。現在のメンバーは、日本人留学生と中国人大学生で構成されており、上海で活躍する日系企業を取材し、それを「RINKOKUメールマガジン」として発行中です。他にも、留学生向けセミナーや、中国人学生向けの企業見学会を開催しています。全活動の方針を決める定例会議を、毎週土曜日午前10時より、上海財経大学の中山北一路校区で開いています。